酔いどれ音楽&読書日記―一人の愛好家の独白

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zoom RSS ダニエル・ハーディング指揮 パリ管弦楽団 11/22

<<   作成日時 : 2016/11/23 00:25   >>

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あまりにもすばらしいパフォーマンスにぶっ飛ばされた。大阪、晩秋のマーラーシリーズ第2弾。先日のSFSOの不満が消え去る特大ホームラン。ハーディングとパリ管のコンビがこんなマーラーを聴かせてくれるとは!!そしてこれまた、前プロのジョシュア・ベルとのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が、コンチェルトの醍醐味が凝縮され、刺激的で圧巻、エネルギッシュな快演そのもの。やってくれるではないか!!

【前半】
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
(独奏:ジョシュア・ベル)
【後半】
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

前プロのメンデルスゾーンからぶっ飛んだ。正直「マーラーの前座でしょ…」くらいの気持ちがなかったわけではないが、とんでもない誤算だった。とにかく、独奏のベルが挑発的にオケに食ってかかり、これにハーディングも黙っているはずがなく、「やられたらやり返す、倍返しだ」を地でいく、しかも倍返しをすればするほど演奏が興奮を帯び、灼熱の坩堝と化し、気軽に触ったら大やけどをするような、とんでもない演奏になったのだ。

ジョシュア・ベルの実演は初めてだが、大胆なステージパフォーマンスの割に、楽器そのものの音量がそれほどある感じでもない。しかし、オケを前に一切妥協なく、譲らず、自分の音楽を貫き、なおかつ即興的に音楽的な提案を仕掛け、相手をのせていくのだから、その力量はすさまじい。

そして、受けて立つハーディングだ。超名曲だけに、もはや解釈の限りが尽くされているかと思いきや、ハーディングの指示は鮮やかで、オケの響きはエキサイティングで、なおかつ質実だ。パリ管と言って侮るなかれ、ドイツオケ顔負けの低弦や内声部の充実に眼を見張り、オケの一体感に舌を巻く。

ベルとハーディングは旧知の音楽仲間とのことだが、そこに馴れ合いや妥協、打算は一切なく、あるのはシビアなプロどうしの感性のぶつかり合いであり、もっと突っ込んで言えば、ライバル心だ。「俺はこんな解釈を思いついた」、「ならこっちはこれでどうだ」、そんな調子で、息つく間もなく丁々発止の掛け合いの火花が連続する。舞台上での一流の才能のぶつかり合いの緊迫感と臨場感に浸り切る幸福感と言ったら、筆舌に尽くしがたい!!メンコンだからと言って、サッカリン漬けみたいに、ルバートとポルタメントで情緒纏綿に、あわよくば往年のクライスラーのように…なんていう視野狭窄とはこの際とっとと訣別し、先入観を唾棄し、いま目の前で起きている音の“異種格闘技”に身を委ね、ひたすらに没頭するのみなのだ。

前プロが終わった時点で客席はブラボーの嵐となり、ベルがサッとスマートに弾いたバッハの爽やかで軽やかな耳触りが、これまた最高にすばらしく、心地いい。

そしてマーラー。これまた、文句なしのすさまじい名演だ。

ハーディングのマーラーを通してつくづく感じたのは、良い意味で指揮者の個性が貫徹したマーラーだということだ。70分間、駆け抜けるような一気呵成の演奏だが、視界は終始良好で、テンポから細部のデフォルメにいたるまでしっかりと筋が通り、聴いていて最高に気持ちが良い。全ての楽章が良識的なインテンポだが、楽器のデュナーミクを逐一念入りに工夫し、ポリフォニーの効果を最大限に引き出し、音は混濁せず、しかしフォルテは激烈であり、かつ一体的だ。クリアな中にもすさまじい熱量を内包した、強烈な音楽に、ただ打ちのめされるのみ。そして、文字通りアダージェットのテンポで通した4楽章の澄み切った美しさ!!指揮者の意志は常に明快で、楽譜の全てのパートにハーディングの主観が息づいており、無駄な音がない。そして(ここが肝心だが)、ハーディングの主観は、マーラーの音を決して殺すことがない。

奇矯な解釈で聴き手を当惑させようとはしない。徹底したスコアリーディングのもとに、かつてないマーラーのポリフォニーの妙味を白日のもとにさらし出し、強烈な音楽として聴き手に生々しく提示する。これこそ、ハーディング一流のマーラー解釈であり、個性なのだ。

マーラー、しかも5番となると、聴く側も結構な緊張を強いられるものだ。5楽章といういびつな楽章構成で、なぜか葬送行進曲に始まり、中間楽章に長大なスケルツォ、その後突然絶美のアダージェットが押し寄せ、なだれ込むように「盛り上がっては収束する」ひねくれた終楽章と、正味70分の旅路を全うしなければならないからだ。演奏家にとっても同じことだ。富士山をどの登山道から登るかを間違えれば、その旅路がいっきに不穏なものになるように、「何合目から登るのか」「どの道を通るのか」「どこで小休止を置くのか」など、綿密な心と身体の準備を入念に整え、臨むべき作品なのだ。

その点、ハーディングの見通しの良さは最高だ。彼の『アルプス交響曲』は爽やかで写実的な名演だが、今晩の演奏は、魑魅魍魎が蠢くマーラーの5番という難解な素材を、眼前に、整然と、かつ味わい深い1枚の風景画として、堂々と呈示して見せた。彼を庭師にたとえるなら、単純な幾何学模様を描出する西洋の宮廷庭師ではなく、整然とした中にも自然の息づかいを感じる、逆に言えば、自然な息づかいの中にも入念に細部の枝葉を刈り整える、日本庭園の匠の至芸だ。

公演パンフレットには、「パリ管は気分屋で演奏にムラがある」と素直に書かれていて笑ったが、さすがに、あんなに「のせる」のが上手い指揮をされると、「気分がのらない」などと言っていられないのではないか?彼の指揮スタイルは、なかなか個性的だが、意図は明快だ。ハーディングを音楽監督に迎えたパリ管は慧眼だと思う。

ハーディングの実演は、ザルツブルクでモーツァルトのオペラを聴いたり、東京で新日本フィルとのブルックナーやマーラーを聴く機会があったが、個々の演奏は、正直そんなに印象深くなかった。ところが、先日スウェーデン放送響との『幻想交響曲』の新譜を購入したら、これが大当たりの爆演で、カップリングのラモーも才気がほとばしり、「化けたか?」など1人妄想していた。そして今回の快演だ。完全に恐れ入りました。評価を改めます。

また、マーラーの5番の実演は、インバルやメータ、MTTなどで聴き、その中ではインバルが没入型の圧倒的超名演だったから(メータはさっぱりだった)、「インバルのくびき」に苦しめられるかな、と思ったら、ハーディングは全く異なる演奏へのアプローチで、大いに聴衆を惹きこみ、楽しませてくれた。

久々のザ・シンフォニーホールだったが、何より今晩のお客さんたちがハイレベルで素晴らしかった。平日19時の開演だから、仕事終わりにマーラーを聴きに駆けつける熱心な方々なのだろう。演奏中は水を打ったように静かに集中し、ひとたび終われば熱狂的な賛辞を惜しまない、そんな一体感があった。

ブラボー、ハーディング!!
ブラボー、ベル!!
ブラボー、パリ管!!

楽しませてくれて、ありがとう!!

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