酔いどれ音楽&読書日記―一人の愛好家の独白

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zoom RSS ピエタリ・インキネン指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 1/21

<<   作成日時 : 2017/01/21 17:27   >>

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すばらしいブルックナーを聴いた。こんなにクリアな響きで「うるさくない」ブルックナーは珍しく、その意味ではすこぶる個性的なのだが、「ブルックナーの音楽を満喫した」という充実感はすごい。ど迫力の、大伽藍のような構造物を期待して聴くと肩透かしを食らうかもしれないが、これはこれで、完成され、熟成されきった大名演だ。

・ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調(ノーヴァク版)

演奏時間は90分。テンポの基本設計は遅い。これが、巨匠ぶった指揮者の「牛歩戦術」ならば付き合っていられないが、インキネンの音楽はとてつもなく響きが豊穣なので、遅さの実感がほとんどない。むしろ、この悠揚たるテンポで、ずっと響きを堪能していたいと思った。

特徴的だったのは、とりわけ前半3楽章において、あくまで弦が主体に響いたことだ(白眉は30分間に及んだ第3楽章だろう)。澄み切った美しさは筆舌に尽くしがたく、こんなに精妙な弦のアンサンブルを、まさかブルックナーで味わえるとは、うれしすぎる誤算だ。あまりにも響きが澄んでいるので、ノン・ヴィブラートかと錯覚するほど。色彩にたとえるなら、天上的なまでに真っ白に漂白されきっていて、音楽にまとわりついてきた雑念や邪念が、きれいさっぱりと削ぎ落とされている。繰り返しになるが、こんなに美しく、爽やかで、豊かなブルックナーは聴いたことがない。

第4楽章では、前半で温存していたかのごとく金管が炸裂したが、決して響きが厚ぼったくならない。フォルテも全くがなり立てず、とことん音楽に恰幅があり、余裕をもって鳴り響く。泥絵の具を塗りつけるような旧ドイツ型の音楽とは対極的で、あくまで金管もアンサンブルに溶け込んで、ハーモニーに中和される。目を閉じて視覚情報を遮断し、文字通り「耳だけで味わう」と、音楽がこの上なく心地よい。ここまで耳だけで楽しめるコンサートは珍しい。聴き終わっての率直な印象としては、(スウェーデン放送合唱団やアーノルド・シェーンベルク合唱団のような)超一流の合唱団の歌う上質な宗教音楽を、とことん堪能したかのような気分だ。

インキネンはフィンランドに生まれ、シベリウスを得意にしているそうだ。きょうのブルックナーを聴き、その点に大いに納得はしたが、彼の音楽をそんな矮小化して捉えると大損だ。ずば抜けた音楽性の持ち主に違いない。演奏中終始静まりかえっていた聴衆が象徴するように、あんなに遅いテンポの精妙なブルックナーを、「聴かせてしまう」のだ。インキネンは、自らの耳と感性に、確信を持っている。だからこそ、巨大な編成のオーケストラを、あそこまで意の赴くままにドライブしてしまう。オーケストラの側も、きっとインキネンの事を信頼しきっているのだろう。両者の間に、ヘタな迎合や妥協・打算が生じず、音楽の背骨が貫徹する。聴き手は、その音楽世界に、100%安心しきって身を委ねられる。こんな幸せな体験はない。テンポも、パウゼも、フレージングも、すべて完璧、最高に音楽的だ。それにしても、インキネンはまだ若干36歳とのこと、本当なのか!? 信じられない。その歳でこんなブルックナーを指揮できるなんて、末恐ろしすぎる…。

日フィルもかなりうまい。うまくなければ、今日みたいな演奏ができるはずがない。このオーケストラを聴くのは、実は4年ぶりくらいで、最後に聴いたのは、横浜で佐渡裕が振ったマーラーの『悲劇的』だったと思う。この演奏会の印象が良くなかった。大好きな曲なのに、聴いていて全く興奮も感動もできず、今となっては演奏そのものが忘却のかなただ。指揮にも大いに原因があったと思うが、しばらくこのオーケストラを聴いてこなかった。いまや、インキネンという素晴らしい首席指揮者を迎え、右肩上がりの充実期を迎えている印象だ。楽器の音圧をもう少し楽しみたいという欲求が残り、管のミスも残念ではあったが、あまり気にならず、またぜひ聴きに来たいと思った。

いい音楽を聴けて、幸せだった。その言葉に尽きる、すばらしい演奏会だった。

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