酔いどれ音楽&読書日記―一人の愛好家の独白

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zoom RSS フランチェスコ・トリスターノ ピアノ・リサイタル 7/9

<<   作成日時 : 2017/07/09 17:23   >>

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期せずして(と言ったらめちゃめちゃ失礼だが)、超絶的にエキサイティングなコンサートで、久々の大満足。爽快極まりない後味で、心踊るような至福の2時間だった。個人的に、全クラシック音楽のうちで最も好きな『ゴールドベルク変奏曲』が演奏されたからでもあるが、何よりプログラム後半、全く知らないバロック期の秘曲から、トリスターノの自作のクールな曲まで、ジャンル横断的に、ピアノの可能性と妙技を披瀝しきってくれた。

そもそも、前プロが『ゴールドベルク変奏曲』というのも驚きだ。反復が省略されていたとはいえ、この32の音楽からなる深遠な大音楽を、コンサートの頭にいきなり持ってくる。ニューエイジ感の強いトリスターノであるから、演奏がグールド的かと言えば、決してそんなことなく、思ったよりも正攻法・正統的。音色はどちらかといえば硬質でドライ、クリアな音とは多少距離がある。

アリアで面白かったのはリズムの崩し方で、思わぬところでフレージングを断ち切り、独自の節回しで歌う。完全にトリスターノの主観で読み解いたバッハの譜面だ。そして、その後の第1変奏から音楽は一気呵成、強力な推進力でバッハの宇宙を描き出す。原始的な匂いすらする低音の強靭な打鍵が、リズムの基軸を支え、主旋律が幾何学的な精緻さを持って放たれる。

叙情的な、夢見心地の変奏も、トリスターノの手にかかれ火花のように弾け散る音楽になる。主題のアリアは、技巧の限りを尽くした緻密なパラフレーズとなって紡ぎ出され、無限のループのようにつながっていく。綺麗に刈り整えられ、磨き上げられた硬質なバッハの音符と、迸るような急速な音楽は、理知的・理詰めのロジックの内から、数理的な宇宙を描出し、その先に神をも感じさせるような、弁神論的な佇まいをも示している。

駆け抜けるようなバッハは、40分弱で終演。

そして、当初はオマケ程度かと思っていたプログラム後半が、これまた最高に面白い。まず、ギボンズというイギリスのバロック期(?)の作曲家の音楽が奏され、これはまずまずだったが、続くトリスターノの自作が、最高にクールだ。眼前に鮮やかなブルーが、サーッと開けていくような、絵画的な色彩感に満ちた音楽が一転、地鳴りするように低音を唸らせた、エネルギーが沸騰するような感覚的な音楽が、轟音となってホールを満たす。いつしかホールはジャズのライブハウスのようなノリと化し、カーテンコールでは歓声が飛び交う。さらにその後、17世紀イタリアの、ミケランジェロ・ロッシという作曲家のトッカータが3曲演奏されたが、モダン・ジャズも真っ青の大胆な和声進行に跳躍するようなリズム感! 「こんな音楽があったのか!!」と快哉を叫びたくなる。そして、トリスターノ編曲によるラモーの『カストールとポリュックス』序曲に至ると、音楽はもはや好き放題にスウィングし始め、それこそクラシックだとかジャズだとかテクノだとかのタテ割りが心底どうでもよくなってきて、終曲のトリスターノの自作『ラ・フランシスカーナ』をもって、ルネサンスから現代に至る音楽史の、そのエッセンスを渉猟するかのような最高の物語が結ばれるのである。ブラボー!!!

トリスターノの意図するところは明瞭で、音楽の根源に流れるリズム・和声という至純な要素をえぐり出し、4世紀以上に及ぶ西洋音楽史の実相を照射して見せる。そして、自身というフィルターを介して、そうした音楽の素材を料理し、音楽の展望と可能性を表現してみせるのである。トリスターノという音楽家自身によって大づかみに把握された音楽の本質を、自らの身体と表現力を駆使して作品化し、アレンジし、近未来の音楽を創造していく。こういう独創的極まりない異端児こそ、文字通りの「音楽家」だと言いたいし、こういう「音楽家」こそを、大いに「買いたい」のである。

決して派手に大見得を切るのではなく、自らの表現したいものを、小ぶりなホール(三鷹の「風のホール」)で、着実に創り上げる。当面、この音楽家からは目が離せない。

ところで、下世話であるが、日曜の午後、東京の緑豊かな郊外の小ホールで、バッハの美しいピアノ音楽を聴くことができるのは、筆舌に尽くしがたい幸福であるなぁと痛感。ただ、「風のホール」、三鷹駅から徒歩15分以上かかるのがやや難点だ。

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