びわ湖ホール プロデュースオペラ 沼尻竜典指揮 『アイーダ』 3/5

恒例のびわ湖ホールでのオペラ・シリーズ。今回は『アイーダ』だ。前回の『トリスタンとイゾルデ』に引き続いての演目。毎回、ドイツ系の演目とイタリア系の演目、定番作品と近現代作品といった形で、上手くプログラムが組まれている。

画像


このシリーズは、毎回高水準の出し物が続いている。関西でオペラの実演を鑑賞する機会はかなり限られているが、このびわ湖でのプロダクションは、関西では最高水準のものだろう。

沼尻氏のヴェルディは初めて聴く。以前、プッチーニは聴いたが、果たして、ヴェルディはどうか。

個人的に、ナマの『アイーダ』は、一昨年のヴェローナ音楽祭で聴いて以来。ヴェローナでは、ワインを飲みすぎていたうえ、21時開演、25時終演(!)という狂気のスケジュールがたたって、睡魔との格闘に追われ、正直、音楽どころではなかった。

さて、今日の『アイーダ』だが、正直、印象は複雑だ。盛り上がるところはかなり盛り上がるのだが、一方、冗長な部分も多々あった。これは、沼尻氏の指揮の特徴でもある。

例えば、第1幕の第1場の最後、ラダメスがエジプト軍の総司令官に任命され、エジプトの人々が戦士たちの武運を願う部分。沼尻氏は、煽りに煽る。オケも合唱もノリ十分。手に汗握る大芝居だ。また、第3幕、アモナズロがアイーダにエジプト軍の進軍経路を問いつめる場面や、第4幕のアムネリスの叫びの場面などでの芝居の打ち方も同様。思い切った解釈が、胸をすくほど小気味よい。

ところが、肝心の第2幕第2場(凱旋の行進とバレエ)が少々平板だし、第1幕第2場の式典の場は一本調子。第3幕の心理戦なども、この指揮者ならば、もっと派手に描けるはずだろう、と思ってしまう。

沼尻氏は、以前からこういうところがあった。音楽は、均質に水準を保っているのだが、どこか余裕がなくて、「ブレス」が見えない。かつての『トゥーランドット』もそうだった。ヴェルディ作品では、そうした特徴がいっそう顕在化する。

一方、粟国淳氏の演出は、かつて氏が演出した『トゥーランドット』よりも、ずいぶんまっとうで、好感をもった。とくに、第1幕と第4幕の演出が素晴らしい。照明による陰影を効果的に利用し、石柱などのシンプルな舞台装置を浮かび上がらせた象徴的な舞台は、何とも印象的で美しい。舞台上の動作も、奇をてらわない正攻法。少々大時代的かもしれないが、ある意味、教科書的な安定感がある。

しかし、いくつか気がかりな点もあった。まず、登場人物の肌の色を、極端な「黒」、および「茶色」で塗り分けたりしていた点。原作に従えば、決して誤りではないのだろうが、ここまで極端に「肌の色」による人物の差異化を図る必要があるのだろうか、と率直に感じた。

そして、何より、舞台転換が多すぎる。せっかく、石柱を基調にした象徴的な舞台を作っているのである。場面転換に際しては、この石柱の配置を少々変えるだけで、別の空間を表現できるような工夫を凝らした方がいい。

今回の舞台では、小道具に至るまで、本当に念入りに、緻密につくられていて、贅の極みを尽くしたものであった。

ところが、第2幕第1場などでは、製作費が足りなかったのか(?)、他の幕、他の場面に比して、ずいぶんと「ちゃち」な舞台装置がみっともなかった。こまごまとした小道具にお金をかけすぎるあまり、大道具・小道具の出来にもムラが出てしまうのも興ざめだ。全幕通じて使えるような、象徴的な装置をつくった上で、場面転換での手間を減らし、その浮いたお金を小道具に回せばいいのである。

なお、今回の公演で最も理解に苦しんだのが、幕間の休憩。なんと、3回もあったのだ。各幕間に、それぞれ、20分、25分、20分。これは、ヨーロッパなどではありえないことだろう。第2幕と第3幕の間に1度休憩を入れれば十分ではないのか? 休憩が多いと、聴衆の集中力、意識も散漫になり、公演に対する印象もチグハグになる。演奏者の休憩時間も必要だろうが、公演全体の水準を考えた時、たび重なる休憩は、決してプラスにはならないだろう。

最後に、歌手に関して。

今日は、男声陣の活躍が印象的だった。特に、びわ湖ホールでのプロダクションに初登場の永田峰雄(ラダメス)。正直、ラダメスを歌うような歌手とのイメージはなかったが、実際、それほど違和感はない。朗々と美声を響かせた。さらに、黒田博のアモナズロ。正直、今日の歌手のMVPではなかろうか? 美声や音程のみならず、第3幕などで発揮した、ドスの効いた演技が素晴らしい。

女性陣も素晴らしい。並河寿美のアイーダは、消え入りそうな再弱音まで繊細の極み。ヴェテラン小山由美のアムネリスは、性格的な声が役柄にマッチしていたが、少々大味な印象も受けた。

京都市交響楽団の安定感もさすが。

14時開演で、終演は17時50分すぎ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

大仁田雅彦
2011年03月07日 22:56
舞台監督の大仁田と申します。
>第2幕第1場などでは、製作費が足りなかったのか(?)、他の幕、他の場面に比して、ずいぶんと「ちゃち」な舞台装置がみっともなかった。こまごまとした小道具にお金をかけすぎるあまり、大道具・小道具の出来にもムラが出てしまうのも興ざめだ。全幕通じて使えるような、象徴的な装置をつくった上で、場面転換での手間を減らし、その浮いたお金を小道具に回せばいいのである。

 ご指摘ありがとうございました。予算配分を担当している立場ですので、自分の不行き届きを的確に書いていただけるブログを拝見しますと、勉強になります。場面転換に関しても、もっとすみやかにできればよいのですが、あれが限界なのです。休憩に関しても、こちらはあれで精一杯で、とくに3幕から4幕に関しては、われわれはほとんど「休憩」しておりません。どうかお許しください。
法善寺宗右衛門
2011年03月08日 12:40
大仁田雅彦さま

これはこれは、舞台監督さまからの直々のコメント、ありがとうございます(汗) まさか、上演の当事者の方が(しかも舞台監督さまが)読んでいらっしゃるとは予想だにしなかったため、ずいぶんと生意気なことを書いてしまっておりました。もうしわけございません…。

図々しく言及しました第2幕第1場ですが、舞台中央の池(?)のようなものが、ちょっと他の幕の装置に比べて見劣りするな、と感じた次第です。自分が座った3階席からは、「水」をあらわすと思しき水色のビニールテープのようなものがはっきり見えたのですが、あそこは、本当の水を用いた方が、効果的かな、とも感じました。というのも、先日、舞台上で、水を霧状に噴射したり、もしくは、水を張った装置をふんだんに利用した、きわめて印象的なオペラの舞台を観たところでして、その印象が強く残っているんです…。

また、休憩の件は、スタッフの方々のご苦労も知らずに、失礼なことを申し上げてしまいました。

(下のコメントに続く)
法善寺宗右衛門
2011年03月08日 12:41
大仁田雅彦さま
(続き)

自分の念頭にあったのは、ヨーロッパの事例です。先日、ヨーロッパでオペラ放浪をしたのですが、現地での休憩回数の少なさに驚きました。たとえば、3幕立ての『こうもり』ですら、2幕の中盤で無理やり休憩を入れたり(ただし、この休憩のはさみ方はずいぶん強引だと思いました)、また、4幕立ての『ナブッコ』も、2幕後の休憩が1度入っただけでしたので、『アイーダ』も同様なのではないか、と思っていたんです。

やはり、あれだけの装置を動かすのは、休憩時間をいっぱいいっぱいで使わないと不可能ですよね。軽率な言及、失礼いたしました。

いずれいにいたしましても、今回の『アイーダ』は、これまでのびわ湖ホールでのオペラ・プロダクションの中で、演出・舞台装置等含めると、ベストな内容だった、と大満足いたしました。あのような内容を、あの安さで実現して下さっていることに、本当に頭が下がる思いです。舞台監督さまに、心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

これからも、1ファンとして、楽しみに申し上げております!
SONY
2011年04月10日 09:06
沼尻氏について
沼尻氏はこんなに多くオペラを指揮しているとは思いませんでした。しかし、コンサート形式で「こうもり」を聞いたことはあります。
私は東京三鷹市在住ですが、沼尻氏が三鷹の方でここに文化センターができたときにTMO(東京モーツアルトプレイヤーズ)を結成し定期演奏をしています。またピアノがうまいということで定期演奏会で何年間かかけてモーツアルトのピアノ協奏曲を全曲やるというものもあります。何度かききました。しかし、最近は日時が会わずなかなかきけません。これから沼尻氏のオペラも楽しみたいです。

さて社会人となりいまごろは新人研修でお忙しいことでしょう。本日10日にチョン・ミュンフンの幻想交響曲が放映されたのですが。ご覧になれたかどうか?
今日見て感じたことはチョン・ミュンフンが人間的にも音楽的にも円熟してきているのかなということです。以前は全力を音楽に込めこれでもかというほど熱が入っていましたが、今は何度も演奏してきた曲で完全に精錬されたのかな?という印象でした。それにそれぞれのパートの演奏も素晴らしかったです。

この記事へのトラックバック

  • ヴェルディ「アイーダ」

    Excerpt: <神奈川県民ホール・東京二期会・谷桃子バレエ団・神奈川フィル共同制作> 2011年3月6日(日)14:00/びわ湖ホール 指揮/沼尻竜典 京都市交響楽団 びわ湖ホール声楽アンサンブル びわ湖ホール県.. Weblog: オペラの夜 racked: 2011-04-07 23:04