【in ザルツブルク復活祭音楽祭】 ドレスデン国立歌劇場 ティーレマン指揮 『オテロ』

「ティーレマンのヴェルディ?」と、若干ピンと来ていなかった自分の不明を恥じた。凄絶きわまりない『オテロ』だ。オペラ公演の最高峰と言えるような、ものすごい場面に居合わせることができた。歌手も超一流だが、ピットに入ったシュターツカペレ・ドレスデンが、これまたすごい。超ド級の、ものすごい熱量の音楽だ。気軽に触ったらやけどをする。BPOの後を継いでのザルツブルク復活祭音楽祭のホストとしての役割を、十分すぎるほど立派に務めている。

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この日は、朝からケルン~ザルツブルクの大移動。サマータイムに合わせて携帯のアラームを1時間早めていたら、Wi-Fiが勝手に電波を受信して(?)、時刻が自動補正されており、無駄に1時間早起きしてしまう。こういう時に限って、また寝ようと思っても寝付けない。

この日は朝から雨。ビショビショに濡れながら、大聖堂のわきを抜け、中央駅に到着。服が濡れて気持ち悪い。パン屋で朝食用のクロワッサンとコカコーラを購入し、ミュンヘン行きのICEに乗る。

それにしても、今回の鉄道旅行は、とにかくDBお得意の遅延に悩まされている。今回、ミュンヘンにて「乗り継ぎ時間8分」でザルツブルク行きに乗り換える予定だったが、遅延時間は、ご丁寧に8分。DBのHPで乗り換え検索をすると、この乗り換えプランが示されるのだが、詐欺じゃないか。隣の席に座っていたおばさんは、車掌に「予約していた電車に乗れなくなった!タクシー代出して!」と強烈に求めている。それはそうだ。結局、ミュンヘン中央駅で、構内に安い中華料理屋みたいなのを見つけたので、時間つぶしで入る。五目焼きそばみたいなのを食べたが、あんまり美味くない。それでも、何を頼んでも同じような肉料理しか出てこないドイツ料理に早くも辟易していたので、少々味付けが違うだけでもうれしいものだ。

13時半前のRJに乗り、15時過ぎにザルツブルク着。残雪の残る山々に抱かれた、絶美の街並みが車窓に開けてくると、やはり気分も盛り上がる。“ごった煮”風のミュンヘンとは全く趣が異なる、清潔感あふれた、澄んだ空気だ。ザルツァッハ川に面したホテルに足早にチェックインし、急速でシャワーを浴びて、旧市街へ繰り出す。この時16時過ぎ。開演は17時だ。

6年ぶりの祝祭大劇場。夏の音楽祭ほどではないが、やはり派手に着飾った人々で溢れている。この日は2階の中央部の座席。急傾斜のため、前の人の座高が少々高くても、ピットから舞台まで、存分に見える。さすが、超一流の劇場だ。17時ちょうどに開演。そこから、息をつく暇もない3時間だ。

とにかく、まずティーレマンの指揮するSKDがすごい。冒頭の嵐から、とんでもない音圧にぶっ飛びそうになる。管弦打のバランスが理想的で、とりわけ、音楽を支える低弦の充実ぶりに目を見張る。そして、合唱の何と上手いことか。「人間の声」の底力を見せつけてくる。

個人的に、『オテロ』の実演は初めて。だが、「オテロ」「イアーゴ」「デズデモナ」という役柄が、それぞれ非常に歌い手を選ぶという事情くらいは知っていた。今回、オテロはホセ・クーラ。前は、「最高のオテロ」として結構名前を聞いていたが、最近は指揮者とかも色々やっているようで、歌手活動としての動静はあまり聞いていなかった。ネットで調べてみると、「1999年に声を崩して、かつてのようなスタイルで歌えなくなった」と、相当酷評されている。いったい何があったのだろう。イアーゴはカルロ・アルバレスで、デズデモナはドロテア・レシュマン。

ちなみに、当初アナウンスされていた配役では、オテロがヨハン・ボータで、イアーゴがディミトリ・ホロストフスキーだったが、ともに病気(?)で降板。前者は、クーラに交代して良かったという気もするが、ホロストフスキーのイアーゴを聞いてみたかった。声質からして、「いかにも」という感じがする。何でも、彼はいま脳腫瘍の闘病中とか?早期に回復してほしいものだ。

重唱の時にレシュマンが声を張り上げ過ぎて浮くきらいもあったが、でも、やはりこのデズデモナはすごく良かった。「柳の歌」の何と絶美なことか。表現力抜群だ。オケの弱音は、これ以上ないほど繊細。ティーレマン、こんな音も引き出せるのか!どうしても、ワーグナーやブルックナーを豪快に鳴らすイメージがついて回るが、つまらない偏見だった・・・。
アルバレスのイアーゴも良かったが、肝心のクーラのオテロは、そんなに印象が残らなかった。声量も存在感も、正直思ったほどではない。

でも、ヴェルディのオペラというのは、本当に「音楽構成」がしっかりしている。第4幕のとんでもない悲劇は、第1幕の長大な「愛の二重唱」があるからこそ生きてくるわけだし、最後のオテロの苦悩は、デズデモナの悲哀に満ちた「柳の歌」があるからこそ際立ってくる。きっちり音楽の“布石”が打たれているからこそ、人物に感情移入しやすくなるのだ。

ティーレマンは、とにかく終始「のせ方」が上手い。自在なアッチェレランドで盛り上げる部分は徹底的に盛り上げ、かと思えば、緩徐的な楽想では「グッ」とテンポも音量も押さえて、メリハリをつける。昔は「無骨な指揮スタイルだなぁ」ぐらいにしか思っていなかった彼の指揮法も、すごく音楽的だ。空間を刻んで拍子をとるというスタイルではなく、音を「すくいあげる」ような独特な動作だが、まさにティーレマンの一つ一つの動作から、音が生み出されている趣だ。先述したように、低弦が音楽の軸をなしていて、イタリア・オペラとはいっても、軽さは皆無。音楽の骨格が極めてしっかりしていて、声楽が合わさると、あたかも、上質な宗教音楽・交響曲を聞いているような気分にすらなる。

演出は大胆な読み替えがあったわけではないが、黒い服を着て、黒い翼が生えたナゾの天使が舞台上を行きかっていたのが「?」だった。ザルツブルクでは、以前、クラウス・グースの『フィガロ』にも“ケルビム”とかいう変な天使が登場して、目障りで仕方なかった。台本にない登場人物を捏造するのが流行っているのか?とはいえ、舞台装置は象徴化されていて、とても美しい。とりわけ、第4幕、婚礼の衣装が意味深げに壁に掲げられ、幕切れの部分で、照明で浮かび上がらせる手法が取られていたのは、感動的だった。

カーテンコールは大いに盛り上がる。レシュマン・アルバレス・ティーレマンにはかなりのブラボーが飛ぶが、クーラには一部から「ブー」も出ていた。バレンボイム同様、ティーレマンはオケの団員全員をステージ上に上げたが、歌手たちの前に彼らを並ばせ、自らも一緒になって答礼していた姿が印象的だ。オペラと言えども、「オケがちゃんと引っ張らないと良いステージにはならない」と意思表示するかのようなパフォーマンス。ティーレマンのオペラと向き合う姿勢が垣間見える一幕だ。

さて、この日、右隣に座った現地人のオッサンのマナーが最悪で、鑑賞を大いに阻害された。『オテロ』が大好きなのか何なのか知らないが、ずっとヘタクソな指揮真似をしていて、視界の右下のあたりで、ずっと指がチロチロと動き続けているのだ。目障りでしかたない。「おまえがここで指を動かしてもオケが鳴るわけないだろ!」とキレそうになりながら堪えていたら、今度は音楽に合わせて歌い出す。そして、ティーレマンがアッチェレランドで見得を切ったら、一人で「ブラボー」とか囁きながら手を叩く。さすがに血がのぼって、「うるさいっっ!」と注意したら、「そんなこと言うなよ」とばかりに、肘でこちらを小突いてきて、さらにムカついた。このオッサン、タバコ臭いうえ、太っていて、鼻息も異様に荒い。「柳の歌」のピアニッシモに重ねてくるかのように、横の席から「ヒューヒュー」と呼吸音が聞こえてきて、大いに気分を害された。鼻息は仕方ないにしても、お前のしょうもない自己満足のために、周囲の客の鑑賞に水を差すようなことは勘弁してほしい、と心底いいたい。なんせ、こちらは、この舞台を楽しみに、日本から来ているわけである。そういう客もいるんだと想像力を働かせてほしい。

終演後は、ペーター教会の近くのレストランへ。ガイドブックに掲載されており、洞窟をくりぬいたような変わった場所にある。思ったより高級店で、紳士淑女がワインを飲みながら談笑するど真ん中に放り込まれ、とにかく落ち着かない。春野菜入りのチキンパスタみたいなやつを頼んだが、これが結構美味しい(メニューをみて“スプリングベジタブル”と書かれていたという理由だけで注文。野菜不足なので・・・)。店の雰囲気に気疲れするので、気を紛らわせようとビールを2杯飲み、気分が大きくなってきたところで満を持して赤ワインに移行したら、何を血迷ったか5杯くらい飲んでしまい、会計がとんでもない値段になった。

「まぁいいか」と、フラフラと千鳥足でザルツァハ川沿いを歩いてホテルに帰着。途中、ウサギの気ぐるみを着た2人組の男が、「ワー」とか大声を上げながらスキップでこちらに突進してきたので、狂気を感じて身構えたが、自分とハイタッチをして去って行った。酔っ払っていたのでいまいち鮮明に覚えていなないのだが、あれはいったい何だったのか・・・。体中に赤ワインが行きわたっていたので、案の定爆睡。

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この記事へのコメント

michelangelo
2016年05月16日 20:05
法善寺宗右衛門様

はじめまして。「ドイツ・オーストリア・6連夜」ご旅行を、興味深く拝読致しました。中でも「音楽の友」でしか情報を得られなかった『オテロ』の貴重な記録を残して下さり、ありがとうございます。

大興奮の渦に巻き込んだシャーガー氏をはじめ、フォークト氏の圧倒的な存在感や「ニュルンベルクのマイスタージンガー」で共演したグロイスベック氏の底力を、改めて貴殿の最新レポートを通じ実感しました。

又、オルトルートを演じたラング氏への賛辞は、嬉しい気持ちになりました。実は今年2月、Semperoperザクセン州立歌劇場にて彼女のジークリンデ歌唱を聴いたのですが、やや揺れる音程に共感が出来なかったのです。愛らし表情を伴う表現力や演技力が抜群だっただけに、独り暫らく考え込みました。

ラトル氏のワーグナー公演に関しましては、「オペラ歌手の声をオーケストラ演奏で掻き消してしまう」との不評が目立ち、私自身も映像からですが薄ら想像出来ました。今回の公演、聴いて観たかったです。

ヨハン・ボータ氏が今年2月の公演をキャンセルされた時は驚きましたが、深刻な病気とのこと。所属事務所を通じ、発表されています。1日も早く、ご回復されることを祈っています。又、「オテロ」の主役とも言えるマエストロのご体調も宜しくなかった。その中での法善寺宗右衛門様のご報告に、目頭が熱くなります。

旬なニュースを沢山お裾分けして下さり、ありがとうございます。
(貴殿と異なり私は1度しかドイツに行ったことがありません)
http://ameblo.jp/michelangelo1998/entry-12138910881.html

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