佐藤俊介(Vn) オランダ・バッハ協会管弦楽団 9/29

佐藤俊介というヴァイオリニストを最近知った。バッハの無伴奏全6曲の新譜のCDが出たからで、聴いてびっくり、天衣無縫に装飾音を駆使した至純の音楽。敬虔で内省的でありつつ、音楽的に極めて美しいバッハ。正直、装飾音が多用されすぎという印象もあるが、ここまで自在に装飾音を散りばめられる音楽性は率直にすごい。調べてみると、ヨス・ファン・フェフトホーフェンの後継として、オランダ・バッハ協会管弦楽団の音楽監督を務めているらしく、まだ30代半ば。次代の古楽界を担うなかなかの逸材が現れたなぁと思っていたら、さっそく手兵とともに来日公演があるというので、喜び勇んでチケットを購入。

日曜15時から、神奈川県立音楽堂「木のホール」にて。初めて足を運ぶホールだ。名前からしてさぞ木目調の美しいホールなのだろうと思っていたら、開館65周年の結構年季の入ったホールだった。ただ、客席数は数百規模で、バロックをやるにはちょうど。客の年齢層は、フルオケのコンサートなどより一回りくらい上の印象。このオケを聴くのは、おそらく前任のフェフトホーフェンとともにオペラシティでミサ曲ロ短調を聴いたコンサート以来。今回の来日公演にやってきたメンバーは、佐藤入れて9名。小編成の曲はさらに編成を絞って演奏される。

なお、プログラムは、冒頭まずバッハの管弦楽組曲第1番に始まり、続いてピゼンデルとかいうバッハと同時代のドイツの宮廷作曲家による『ダンスの性格の模倣』(リズムやテンポの異なる短い8つの舞曲を繋ぎ合わせた小規模な組曲のような音楽)、バッハのヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ホ短調、ビュファルダンとかいうバッハと同時代のフランスのフルートの名手による5声の協奏曲ホ短調から第2楽章、そして最後にブランデンブルク協奏曲第5番。

これが見事なバッハ、バロックだった。ホールの規模感がジャストフィットしていることもあってか、物理的な音量の小ささはまったく気にならず、むしろ躍動する表現がビビットに客席に飛んできて、愉悦に満ち溢れたバッハだ。バッハの音楽は、意外と聴き手を選ぶようで、自分の知り合いの愛好家でも、「バッハは生真面目で辛気臭い。嫌い」と公言して憚らない人もいる。たしかに、ゆったりとした緩徐楽章が時折抹香臭くも感じる時があるが、今日の演奏は快活な部分ではきわめてリズミカルに、時に大胆なブレスを交えてアクセントをつけながら、思い切った表情をつけていく。ヴァイオリン協奏曲第2番の第1楽章では全員の呼吸が合わずにバラバラと崩れかかったが、これくらいアグレッシブにやってくらるのがちょうど。

オランダ・バッハ協会管弦楽団の面々は名手揃いで、特にブランデンブルク協奏曲でのチェンバロ奏者の目の回るような妙技には度肝を抜かれた。佐藤はヴァイオリンのボウイングでオケを導くが、大きく身振りしながら音楽を揺らして即興的な進めていく様は見ていて爽快だ。心底音楽を楽しんでいるのが伝わってくる。

アンコールは、バッハの管弦楽組曲第2番のパスピエと、G線上のアリア。後者は、ノン・ヴィブラートの精妙な美しさに涙腺崩壊寸前。客先もなかなか盛り上がる。

正直、バッハ好きを自任する自分であっても、例えば過去トン・コープマンなど大家の演奏で、きわめて退屈してしまうことがあった。佐藤はヴァイオリニスとだから、ヴァイオリン奏者が演奏全体を牽引していくというのは音楽にメリハリがつけられて結構いいのかもしれない。やはり、リーダーが通奏低音担当だと、なかなか大胆に表現をつけづらいのかもしれない。

終演後はサイン会。大人気だった。素晴らしい才能の登場に大いに期待したい。

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