セヴァスティアン・ヴァイグレ指揮 ルドルフ・ブーフビンダー(p) 読売日本交響楽団 9/21

2日連続、大好きなマーラーの5番の実演を聴くというしあわせ。本日はセバスティアン・ヴァイグレ指揮の読響。結論、昨日のN響を圧倒的に凌駕する名演。昨日はさっぱり味わえなかった満腹感を存分に堪能し、とにかくマーラーの世界を心から満喫したものすごい充実感。しかも、前プロが、なんとルドルフ・ブーフビンダーをソリストに迎えてのベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番で、これまた大変な名演。土曜日の午後、これほど満ち足りたコンサートを聴けるなんて、何という幸せ。東京芸術劇場にて。

前プロのベートーヴェン、とにかく香り高く、質実無比な音楽である。ブーフビンダーのソロは良い意味で中庸の美そのもの。タッチは粒立つわけでもなく、またリズムやが際立つわけでもないが、とにかくベートーヴェンの均整のとれた音楽が流れるように繰り広げられていく。ヴァイグレの振る読響の伴奏も絶品。オールド・スタイルながら、バスがオケ全体をしっかりと下支えし、なおかつ、あくまでソロを引き立てる役回りに徹するなど、とにかく水準が高い。実演で聴いてきたベートーヴェンのピアノ・コンチェルトでも屈指の名演の印象。さらに、アンコールの『悲愴』ソナタの第3楽章も、ピアノで弾くベートーヴェンの芸術の最高級とも言えるような完璧な音楽。あまりにも幸福な時間である。

後半はマーラー。正直、ヴァイグレは生真面目な指揮者との印象が強く、以前聴いたブラームスなどでは随分退屈してしまったが、きょうのマーラーを聴いて悪印象は完全に上書きされた。今日は、マーラーのスコアの使徒として、かなり没入的に音楽に入り込んだ指揮をした。ユダヤ指揮者のように、血の共感を示すというスタイルではないのだが、マーラーの音楽の深部に横たわる情念を、純音楽的に見事に表出させていった、という感覚。

指揮者にとって、マーラーの音楽で多用されるルバートをどう処理するかが涙が出るほど難しい、と聞いたことがあり、音楽を内面化できていないと、以前のドゥダメルのようにへんてこりんなギア・チェンジをしまくって聴き手を白けさせてしまうのが、きょうのヴァイグレのルバートの処理はとにかく見事。さすがにオペラを振る指揮者だと思った。呼吸の置き方、間の取り方など、とにかく聴き手の生理に見事にハマる。

さらに特筆すべきが、ディテールへの異様な執着だ。弦、管、打それぞれに、どんどん大胆な表情を付けていき、これが見事に奏功する。第5楽章で、アダージェットのメロディを弦が再現する部分の表現など特に秀逸で、ファースト・ヴァイオリンのセカンド・ヴァイオリンが聴いたこともないような掛け合いを見せたかと思えば、そこに低弦も絡み合っていって、妖艶な瞬間が出現する。こういう遊びがマーラーの交響曲に生命を吹き込む。マーラーはこのシンフォニーで「宇宙」を表現したのだという。ならば、スコアを通してどう宇宙を表現するのが指揮者の腕の見せ所だ。ヴァイグレはそれを見事にやってのけた。これまで何度も音にされてきたスコアから、独自の視点で解釈を絞り出し、それを新鮮な音にしていく。「次の瞬間、一体何が起こるのか?」。そういう期待を聴き手に持続させることこそが、指揮者の腕の見せ所だ。きょうのヴァイグレの芸当がまさにそれ。そして仕掛け師ヴァイグレに応える読響ら、驚くほど水準が高い。ホルンは舌を巻くほど上手く、和声感に溢れた艶やかな弦も、昨晩のN響を圧倒的に凌駕する。きょうのヴァイグレの巨大な音楽を聴くと、昨晩のヤルヴィのマーラーはあまりにも箱庭的で機能的すぎたとの印象が強まる。もう、次にどんな手が繰り出されてくるのか、すべて見え透いてしまって、聴き進めてもまったくワクワクしなかったのだ。

久々にマーラーの大交響曲を堪能できたという深い余韻。今期のコンサート・ランキングの上位に食い込みそうな素晴らしい演奏会だった。録音として記録してほしいくらい。

P.S.
あまりに素晴らしい演奏会だったので、ネット上での評判を調べてみたら、なんと、この前日の9/20のサントリーホールでの公演を酷評するものが散見された。拍手も冷めきっていたとか?俄かに信じられない。少なくとも21日は、手に汗握る超名演だったと断言する。前日は、金管もガタガタだったそうだ。21日はホルンもトランペットも完璧だった。

論評を間に受けるとすると、20日の演奏を経て「これはヤバい」と踏んだヴァイグレと読響が、21日の演奏会に背水の陣で臨み、結果として超名演になったのかも知れない。不思議なことがあるものなのだなぁ。たしかにそう言われて見れば、カーテンコールの際の団員の顔つきが多少強張っていたのは気になっていた。

いずれにせよ、音楽は人間がやるものであるわけだから、不確実だ。ヴァイグレと読響には、今後も引き続きぜひ頑張ってもらいたいし、あんなに素晴らしいマーラーとベートーヴェンを聴かせてくれたのだから、私は全力応援する。大いに期待している。実は、21日の公演があまりにも良かったものだから、翌22日の公演が是が非でも聴きたくなり、調べてみたら、完売だった。残念。

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