神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ 『カルメン』  10/20

超お楽しみ演目、『カルメン』。開演前ふとプログラムをみて驚愕。演出家が文章を寄稿しており、なんと、21世紀のアメリカのショービジネスの世界に舞台を読み替えての演出との由。

その演出だが、演出家の野心的な心意気は大いに買いたいと思ったものの、正直自分は途中からついていけなくなってしまった。カルメンはバーレスクのクラブに雇われている野心的な女優。警察はクラブを運営するマフィアと通じていて、スニガは劇場運営を牛耳っており、ホセは都会に出てきた生真面目な警官で…と、よくもまぁここまで新たなアイディアが湧くなぁとは思うのだが、やはり頭がついていかない。以前観た深作健太氏演出の『ローエングリン』もド派手な読み替え演出だったが、プログラムでブレヒトの「異化」について触れられており、芸術が扇情的に聴衆に作用しないようにあえてストーリーを読み替えることの意義が語られていた。その歴史的経緯はなるほどなぁと思うのだが、色々なことを想像すればするほど、音楽がストレートに楽しめなくなるというもどかしさはある。

歌手は粒揃いで、カルメン役のアグンダ・タラエワはなかなかの存在感。ボリショイ劇場で歌っている人らしい。ドン・ホセは城宏憲で、この歌手は去年代役として歌った『アイーダ』のラダメスがあまりな素晴らしかったので期待していたのだが、予想よりは少し線が細いドン・ホセだった。直情的にアホ丸出しな感じで歌う人もいるが、もっと繊細で、心に少し闇を抱えたような感じの歌唱と言おうか。ミカエラの嘉目真木子も幕を経るごとに調子を上げた。

ピットに入るのは、ジャン・レイサム=ケーニック指揮の神奈川フィル。神奈川フィルを聴いたのは久々だが、なかなかうまい。指揮者は知らない人だったが、モスクワの劇場で監督を務めており、オペラのベテランらしい。確かに、スコアの隅々まで目配りがきいており、一点たりとも曖昧さがない徹底ぶりだったが、やや生真面目な印象。人間ドラマとしてらやや音楽が硬い。

カーテンコールでは演出に結構ブーイングが飛んでいた。終演後、演出の田尾下哲氏との交流会があり、田尾下氏が演出意図を説明し、観客が質問するというスタイルだったが、厳しい質問にも丁寧に応えていて、好印象だった。そもそも、こういう会をセッティングして、ちゃんと出てくるあたり腹が据わっている。なんでも、ロマの友人に話を聞いたら、「カルメンがジプシー代表みたいな描かれ方をしているので大いに迷惑している」と語っているそうで、差別を助長するような演出だけはしたくなかったのだそうだ。観客はもちろんのこと、歌手や指揮者からも色々注文がつくのだろうから、演出家というのはよほど覚悟が決まっていないと務まらない仕事なんだとつくづく感じた。

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