ケンショウ・ワタナベ指揮 舘野泉(p) 東京フィルハーモニー交響楽団  11/23

東フィルの定期で、大好きなマーラーの『巨人』。指揮は、ケンショウ・ワタナベという31歳くらいの若手で、東フィル初登場とのこと。個人的にも初めて名前を聞く指揮者。若手指揮者のエネルギーが炸裂するような演奏を期待して足を運ぶ。

前半は舘野泉をソリストに迎えてのラヴェルの『左手のための協奏曲』。齢83の舘野泉、それほどキレはないが味はある。オケは大胆になっていたが、オケにピアノがかき消される瞬間もあり、オケとソロがズレるタイミングも散見されるなど、多少粗さはあった。舘野泉の味わいを聴く演奏だと思った。ソリストのアンコールは『赤とんぼ』。洒落た編曲で、改めてこの懐かしい旋律が胸に迫る。

後半はお楽しみの『巨人』。結論から言うと、かなりの名演だった。第1楽章は、かなりテンポの座りが悪く、早くなったり、遅くなったりやや目まぐるしく、またリピートでずいぶんテンポに差が出たりするのが気になった。

しかし、2楽章以降圧倒的に面白くなった。細かな部分にアクセントが効いていて、テンポの動きも作為がなく、指揮者が楽曲に入れ込み、オケがその指揮者の心意気を買っている様が伝わってくる。第3楽章もかなりの名演だ。初共演とは思えないほど指揮者とオケの息が合っている。冒頭のコントラバスはじめ、東フィルのソロ見事。中盤、ハープの伴奏に乗って、ヴァイオリンが静謐に歌曲のメロディーを物語っていく部分など、昔を回顧するかのように夢幻的な響きが醸し出されて絶妙だ。

そして第4楽章、冒頭の嵐は早いが、その後の絶美のメロディーはこれでもかとばかりに味わい尽くし、歌い尽くされる。やはり、この曲はこれくらいやってくれなくては!

この交響曲は、マーラーの作曲家としての独立宣言のように聴こえる。音楽界に、自らの存在を堂々と知らしめる、若きマーラーの偉大なる自叙伝だと思う。「自分はこんなオーケストレーションができるのだ!」「自分はこんなメロディが書けるのだ!」「自分は表現意欲がこんなに溢れているのだ!」と、とにかくマーラーのエネルギーが溢れ出ている。演奏者には、この若きマーラーの熱量を受け止めきり、表現しきってほしいと思っている。これを、老成した感じでやられたり、フォルムばかりを意識してやられたら、何一つ面白くないし、何より、曲本来の魅力を潰してしまうと思う。

その意味では、ケンショウ・ワタナベという若い表現者は、この交響曲の核心めがけて、とにかくひたむきに求心的に突き進んでいく感じがあって、ものすごく好感を持った。プロフィールを読むと、ヤニック・ネゼ=セガンの弟子らしく、なるほど、確かに音楽のメリハリのつけ方など師匠譲りの感じがある。しかし、陰影のつけ方はひょっとしたら師匠よりも深いかもしれない。可能性を感じた。

唯一注文がつくとしたら、打楽器が締まらなかったことだろうか。縦の線が多少ずれたのはやむを得ないが、終楽章のコーダの頭の大爆発がそろわなかったのは痛恨だと思う。そして、シンバルの響きが冴えない。シャリーンと鳴り、とにかく緩い。もっとバシッと決めて音楽の骨格を引き締めて欲しい。

終演後はかなりのブラヴォー。非常に可能性のある指揮者。東フィルは、バッティストーニという若手を発掘し、ここまで伸ばした。このケンショウ・ワタナベとのコンビネーションが伸びていくことにも期待である。

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