マレク・ヤノフスキ指揮 チョ・ソンジン(p) ケルン放送交響楽団 11/26

齢80になるヤノフスキ。孫くらいの年齢差があるチョ・ソンジンとベートーヴェンのコンチェルトで共演である。この日は『皇帝』。そして後半は『英雄』交響曲。正面きっての大名曲プログラム。

チョ・ソンジンは天才だと思っており、この日のソロも見事だ。このピアニストは、ショパン・コンクールの覇者でありながら、決してプログラムをショパンに矮小化させず、モーツァルト、ベートーヴェン、さらに、ドビュッシーやベルクなど、古今東西の作品に果敢に挑む。以前サロネンとの共演で聴いたベートーヴェンの3番のコンチェルトも正攻法の名演だったが、この日の『皇帝』もきわめて質実の演奏。グランド・ピアノの華やいだ音色を生かし、タッチは清澄でクリア。気を衒わず、堂々たる名演。

ヤノフスキの伴奏もさすがに堂に入ったものだ。前日の東京文化会館での4番のコンチェルトでは、3楽章のカデンツァ開けで大事故があったと複数の方が書かれていたが、この日は無事故。オケの中では、乾いた、ハリのあるティンパニの音色が素晴らしい!

チョ・ソンジンはアンコールにブラームスのインテルメッツォから1曲。味わい深い、大人の解釈である。平日晩にもかかわらず満員のサントリーホール、チョ・ソンジンのファンも多いのだろう、水を打ったように静かに聴き入る。

休憩を挟んで『英雄』。こちらも正攻法で堂々たる演奏である。去年のN響との第九の際にも感じたのだな、ヤノフスキの演奏は、ピリオド・アプローチなどどこふく風で、モダン・オケの機能を生かしながらの純然たるものであるのだが、不思議と古臭さがないのである。むしろ、清潔で、新鮮な印象が強い。プログラムに舩木篤也氏が寄せていた解説が秀逸で(この人の解説はいつも的確で素晴らしいと感じる)、ヤノフスキは、ベートーヴェンの時代と現代ではコンサートホールの規模や楽器の機能が変わり、聴衆の「聴習慣」が変わってしまっているのだから、現代のホールでピリオド奏法を実践することに意味を見出していないのだという。ただ、例えばベートーヴェンの時代は、ホルンの役割はそれほど目立つものではなかったので、そこは解釈に反映させるべきであるという。

自分はこのヤノフスキの考え方に賛成である。どうも最近、大ホールでバッハやモーツァルトをピリオド・アプローチで聴くと、白けてしまうことが多いのだ。

この日の『英雄』も、とにかくハッタリがなく、清新な演奏。逆に、あまりにもハッタリがなさすぎるので、第1楽章のフィナーレなどはもっと高揚感が欲しいとの欲求も残る。去年の第九の時もまったく同じ感想を持った。

アンコールはベートーヴェンの8番のシンフォニーの第2楽章。とにかく淡々としたステージ・パフォーマンスだ。来年春には、上野で『トリスタン』を振る。超楽しみである。この指揮者のワーグナー、リリースされているいずれの演奏も最高に素晴らしいし、実演で聴いた『神々の黄昏』は、驚くほど推進力に満ちた超名演だった。齢を重ねて、日本に何度も来てくれることは本当にありがたい。

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