酔いどれ音楽&読書日記―一人の愛好家の独白

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zoom RSS シモーネ・ヤング指揮 東京交響楽団 11/5

<<   作成日時 : 2016/11/06 13:36   >>

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「晩秋にはブラームスとドヴォルザークがよく似合う」。楽団のチラシの触れ込みは気が利いていたが、皮肉なことに、演奏そのものは、このキャッチコピーの対極にあった。バッキバキに硬直した、炎天下のブラームス。聴き手は極度の緊張を強いられ、終演直後は途方もない疲労感に襲われる。そして小一時間も経てば、音の「響き」自体の印象が、完全に消え去ってしまった。

【前半】
ドヴォルザーク
チェロ協奏曲 ロ短調
(独奏 アリサ・ワイラースタイン)
【後半】
ブラームス
交響曲第4番 ホ短調

寒さも深まる11月初旬の土曜の夕暮れ。サントリーホールでのブラームス、しかも4番。状況設定は完璧だ。

指揮のシモーネ・ヤングは、彼女がハンブルク国立歌劇場のインテンダントだった頃に、2度現地で聴いた。演目は『アラベラ』と『パルジファル』。もう5年以上も前の話だが、流麗で厚みのある『アラベラ』が好印象で、細部に拘泥しすぎず、演奏者の自発性に委ねた指揮が、とてもよかった(『パルジファル』は時差ぼけがたたり、開演直後に撃沈)。

そんな芸風が180度変わってしまったのか。前半のドヴォルザークから、ヤングが振る東響はフルスロットルでアクセル全開。硬質な金管がクサビのように垂直に突き刺さり、トロンボーンはバリバリと音を割る。弦は荒れ狂うかのごとく一心不乱に弾きまくり、ヤングはバーンスタインのように指揮台上で跳躍し、演舞する。

アリサ・ワイラースタインのチェロは流麗で繊細。しかしヤングは、「ついてきなさい!」と叱咤するかのごとく尻を叩き、有無を言わさずソロを呑み込む。ソリストも食らいつき、その意味では、丁々発止の刺激的なコンチェルトになる。ワイラースタインの持ち味は緩徐的な楽句に生きるが、ヤングの本領はアレグロの強奏に生き、一筋縄にはいかない、たいそうユニークな演奏だった。ここは、心の底から拍手。

しかしまさか、「晩秋によく似合う」はずのブラームスにも、ヤングがこの流儀を持ち込むとは、思いもよらなかった。後半のブラームスは、むしろドヴォルザーク以上に硬質で、バッキバキに硬直した、金属的な音楽だ。

10分弱で、疾走するかのごとく演奏された第1楽章。パウゼはドライで拍動的、和声の深みは皆無。あるのは、ひたすらに推進する激烈な音の塊のみ。響きを味わう余韻なんて望むべくもない。コーダになだれ込むと、「これでもか」とばかりに急加速、オケを煽りに煽り、咆哮するようなフォルテッシモの轟音でホールを震撼させ、有無を言わさず「バチン」と曲を閉じる。

第2楽章は一転してテンポを落とすが、決してハーモニーは中和しない。一つひとつの音符が、開栓したての炭酸水のごとく粒立っている。緩徐的な楽句で「グッ」とテンポを落とし、ザラザラとした不思議な質感の弱音から、息の長いクレッシェンドで盛り上げてみせるが、これまた「晩秋」を想起させる深みとは、根本的に味わいが違う。そのテイストは、ライムを絞り入れたハイボールのように軽く、後を引かない。

第3楽章も唖然とするテンポで猛突進し、まるで若者が踊り狂う六本木のクラブの音楽だ。 第4楽章も激烈で、コラールは金属的に響き、劇的なフォルテの大音響が鳴り響く。火の玉と化したヤングは荒れ狂うように指揮に没入し、オケはサーフィンするかのごとく運動的に躍動。これまた「バチン」とビンタを食らわすかのごとく、全曲を閉じる。

終始フォルテが基調のこんなブラームスの4番は初めて聴く。その意味では、すごい。その面白さに拍手を送る人がいるのも分かる。しかし、個人的には、楽章ごとのテンポの設計に、あまり計算が感じられなかったのと、何より、ブラームスの和声感、構築感、熟成された渋みが全く堪能できなかったことに、心底がっかりした。喩えるならば、天然水で淹れた香り高い熱々の玉露茶を、魯山人の湯呑みで飲もうと楽しみにしていたら、水道水で水出しされ、キンキンに冷やされたパック麦茶が、百均のコップで運ばれてきた…そんな気分なのだ。

ブラームスの4番には、大好きな名盤がたくさんある。とりわけ触手が伸びるのは、バルビローリやジュリーニ、チェリビダッケやザンデルリンクといった老巨匠たちによる、一癖も二癖もある晦渋な演奏だ。度重なる比喩で恐縮たが、彼らの練達の音楽が、素材の出汁が幾重にも効いた祇園の京懐石であるとするならば、ヤングの音楽は、強炭酸のコーラを痛飲しながらセンター街で食べる、高カロリーのマクドナルド、といった趣きかもしれない。きょうは、コーラのどぎつい炭酸に舌がやられ、ハンバーガーのしつこい油分で胃がもたれ、ぐったりと疲弊した。

それにしても、東響は、よくあの煽りについていけたと思う。オケそのものは健闘だ。

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