【inニューヨーク】D.ロバートソン指揮 メトロポリタン歌劇場 『ポーギーとベス』 9/23

出張でニューヨークを訪れる。事前に現地の音楽日程を調査してみたところ、ニューヨーク到着初日が、メトの今期のシーズン・オープニングだった。演目は、ガーシュインの『ポーギーとベス』。もう少し“クラシカル”な作品を観たい気もしたが、日本ではあまりお目にかかれないアメリカ・オリジナルのオペラも悪くないとチケットを購入。1階の後方、200ドルほどの座席。


朝羽田を発ち、13時間のフライトで、現地時間の昼前にJFK空港着。長時間のフライトで疲れているところに、このJFKでの入国審査が異様に厳しく、また係官がけだるい感じでダラダラと仕事をするので、40〜50分待たされ、疲れとストレスがさらにたまる。顔写真、指紋など事細かに絞られる。ようやく関門を経て、タクシーにてマンハッタンへ。


マンハッタンに入ると、とにかく渋滞が尋常でない。立ち往生してしまって微動だにせず。ドライバー曰く、ちょうど国連総会の時期と重なっているからとのこと。セントラルパークの南、グランド・セントラル駅に近いホテルが目的地だが、あまりにも進まないので、数ブロック手前で降車して徒歩でホテルへ。JFKからマンハッタンへのタクシー料金は定額。ホテル到着は正午ごろだったので、まだチェックインはできず、とりあえずフロントに荷物だけ預ける。預ける際に1ドル、引き取る際に1ドルのチップを求められた。この文化がよく分からない。


ここからしばらくは仕事。ろくに機中で寝られなかったので、やや朦朧としながら仕事をし、夕方一段落。一路メトへ急ぐ。ホテルからまっすぐ北上し、セントラルパークを抜けてメトロポリタン歌劇場へ。ニューヨークの街路を歩くと、とにかく雑多でカオスという印象。人種はおろか、言語、ファッションが文字通り多様。林立する高層ビルは、年季の入っているものも多い。アメリカ帝国の黎明期、20世紀の初頭に建てられたビルも多いのだろう。歴史的建造物の高層ビルというのは、どこか不思議な風合いだ。さらに、次々競い合うように建造されている新たな高層ビルの中には、日本では見たこともないような細さのビルもあったのだが、地震で倒壊したりしないのだろうか。そもそも地震があまりないのかもしれないけれど。以前ニューヨークが暴風雨にさらされた時に大停電したことがニュースになっていたが、災害には脆弱な都市なのかもしれない。


メトへの道すがら、異様に警備が厳しい区画があり、メディアも集中している。何事かと思ったら、トランプタワーだった。光沢感のある黒塗りの壁面が、いやらしいまでに「富」を象徴する。国連総会の会期中なので、おそらくトランプ大統領が滞在しているのだろう。道路は全面的に封鎖され、タワー前の歩道では手荷物検査を実施。なんともものものしい。


メトへの到着は17時半ごろで、開演は18時。Boxオフィスでチケットを受け取り、入場。信じられないほどに着飾った紳士淑女で溢れかえり、盛大な社交場と化している。さすがシーズン・オープニングだ。ちょっと引いてしまうほどの賑わいようだ。開演前から盛大に盛り上がっており、開演時間の18時になっても、なかなか客席に入ってこない。係員に催促されて、18時を過ぎた頃から押し寄せるように客が入ってくる。全員が入ったのは18時15分頃だっただろうか。


ようやく始まるか、と思った時に、思わぬ展開が待っていた。突然小太鼓のドラムロールが始まったかと思えば、観客が全員起立。訳の分からぬままに自分も起立すると、おもむろにアメリカ国歌の斉唱が始まった。これがすごかった。とにかく、誰もが張り合うような大声で誇らしげに国歌を歌う。見回してみると、白人の高齢の淑女、ターバンを巻いた黒人の若い女学生、さらに、ユダヤ装束のようなものに身を包んだ身体障害のある男性…と、全員が声を張り上げている。圧倒されてしまった。これがアメリカの強さか。これだけのバラバラな人たちが、建国以来の歴史的な物語を共有しつつ、アメリカ合衆国を愛し、自らの帰属を誇る。表面的な多様性を一括する、精神的な紐帯の強さを目の当たりにした思いだった。


そしてオペラが始まる。『ポーギーとベス』は、抜粋されたオーケストラ楽曲でしか聴いたことがなかったが、なんというか、とても悲しい話だ。ほぼ全ての登場人物が黒人で、キャットフィッシュロウという横丁で繰り広げられる黒人たちのドロドロとした、悲喜こもごもの人間模様を綴っていく。ガーシュインだけあって、音楽はジャズ調で、ミュージカルを先取している趣もあり、上演に3時間ほどかかるなかなか大掛かりな作品だ。


冒頭、勢いのあるテーマから導入が始まるが、正直、オケの音が全然響いていないことに驚いた。第一印象では、かなり乾ききったカサカサの響きで、音色に艶がない。楽曲の特性ゆえなのだろうか。とにかく、1階後方の自席で聴くには、なかなかもどかしい鳴りである。


前の座席に字幕モニターがあるが、選択できる言語は英語・ドイツ語・スペイン語のみ。なんでフランス語がないのだろう。とにかく驚いたことに聴衆は誰もが恐ろしいほどノリが良く、ウケまくっている。英語力が全然追いついていない自分は、何が面白いのかさっぱりわからず、情けない限り。そして、ほぼ完徹だったこともあって、ところどころ意識が飛ぶ…。指揮はデイビッド・ロバートソンで、勢いのある指揮なのだが、いかんせんオケの音が全然魅力的でないので、個人的にはあまりこのオペラに乗ることができず。


ただ、第3幕、最愛のベスが死んでしまったことを知らないポーギーが、「ベスはどこにいるのだ?」と周囲に問いかけ、「都会に出て行った」と答えられると、「なら自分のスクーターで追いかける」と真面目に答えるあたりのやりとりが、なんとも悲哀を誘う。ポーギーは、設定上、足の不自由な黒人であり、思いを寄せるベスにも死なれてしまう。マイノリティの悲劇だからこそ感情移入でき、ガーシュインの音楽もその哀愁をうまい具合に描き出す。物語の設定が巧妙だと思う。カーテンコールは観客席総立ちの大喝采だった。


ホテルへの帰路、カーネギーホールの近くのステーキハウスに入り遅い夕食。ニューヨークの食には別に期待をしておらず、「ステーキを食べられたらなぁ」くらいに思っていたのだが、いかんせん名店はアホみたいに高額。この店はちょうど手頃だったので入店。ステーキを頼んだら、次から次にオプションを勧めてくるので、これを全部上積みしていったら会計がとんでもないことになりそうだと防衛本能が発動し、全部断った。すると、出て来たのは、文字どおり、ステーキの肉オンリー…。肉自体は美味しかったが、極論してしまえば肉を焼いているだけなのでそんなに目新しい味ではない。ブルックリン・ラガーというビールを飲んだが、そんなに好みの味ではなかった。あと赤ワインを一杯。それで、会計がチップ込みで70ドルくらいする。高すぎる。この街は物価感覚がおかしい。


疲れつつも、それなりに満足な1日。

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