ヤニック・ネゼ=セガン指揮 リサ・バティアシュヴィリ(Vn) フィラデルフィア管弦楽団 11/4

ヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団の来日公演を聴く。プログラムは、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ソリストはリサ・バティアシュヴィリ)とマーラーの交響曲第5番。結局マーラーの5番はこの1週間で3回実演で聴くことになる。ネゼ=セガンは、昔ザルツブルクで『ドン・ジョヴァンニ 』を聴き、何年か前に東京でフィラデルフィア管弦楽団の来日公演を聴いて以来。モーツァルトは演出がサッパリ意味不明だったことが印象に残っている。前回のフィラ管との来日公演では同じくサントリーホールにてエキサイティングなマーラー『巨人』を聴かせてくれたが、その時の演奏会でばったり知人と遭遇し、その知人がタダ券もらって聴きにきた(?)という話を開演前に聞いてしまい、3万円ほどの大枚をはたいてチケットを購入した身としては怒りに打ち震えてしまってまともに演奏を聴けなかった…。

前プロは、当初プロコフィエフの2番のコンチェルトが予定されていたが、チャイコフスキーに変更。ここのところ、メイン・プロがマーラーの5番でも前プロに結構重いコンチェルトを持ってくるケースが多いのか。きょうのチャイコフスキー、相当な名演だと感じた。この曲は、コパチンスカヤ &クルレンツィスによる弩級の大名演に接してから自分の中での満足度のハードルが上がったと思っていたが、きょうはソリストとオケが丁々発止、即興味溢れ、まさにコンチェルトの面白さが凝縮されている。美人ヴァイオリニスト・バティアシュヴィリは、ヴァイオリンをかなり丁寧に鳴らす人で、時折ムターを彷彿とさせる妖艶な節回しも繰り出される一方、急速な部分では技術的な危うさも垣間見えた。ネゼ=セガンがかなり思い切った表情をつけながら、緩急の幅を目一杯に取るので、オケのアッチェレランドにバティアシュヴィリがついて行けず、危うく崩れかかる手前までいく場所もあったが、ライヴなのでこれくらい何の問題もない。第1楽章が終わったところでバティアシュヴィリがネゼ=セガンに何やら話しかけていた。「テンポ動かしすぎ」とか言ったのだろうか…。

第2楽章ではソリストはもちろん、木管のソロの妙技が際立ち、ネゼ=セガンもかなり柔軟に表情をつける。第3楽章は、第1楽章での教訓を踏まえてか、オケのテンポは遅め。その上ソロはさらに遅い。ただ、決して座りは悪くなく、むしろソロとオケの対決感が出て面白い。ネゼ=セガンはフィナーレに向けていつも煽るが、きょうもオケをぐいぐい追い込み、圧倒的なエンディング。かなりブラヴォーが飛ぶ。アンコールは知らない曲。ネゼ=セガンは木管の席で聴く。

休憩を挟みマーラー。数日前、同じサントリーホールでケント・ナガノの風変わりな演奏を聴いたばかり。それに比べると、ネゼ=セガンの解釈は至って常識的だが、それでいて無味乾燥な演奏ではまったくない。この人の指揮は恐ろしいほどのパッションを全身から表出させるもので、よくエネルギーが持つものだといつも感心するが、きょうのマーラーも70分一筆書きで弛緩ゼロ。第1部・第2部・第3部の構造を念頭に、第1楽章と第2楽章、第4楽章と第5楽章の間はアタッカで奏され、息つく暇も与えない。

フィラデルフィア管を実演で聴くのは、個人的にはエッシェンバッハ 時代含め3回目だが、全体的な水準が高く、やはり管楽セクションは見事。ただ、きょうは第1トランペットにミスが目立ち、入りがズレるなど雑な印象だった。長旅の疲れか。一方、スケルツォのホルン・ソロは女性奏者で、音程・音量とも見事で申し分ない。ちなみに、チャイコフスキーでなティンパニを女性奏者が叩いていた。日本ではあまり見ない光景。

第2楽章までは、ネゼ=セガンの煽りにオケが見事に合わせたが、第3楽章ではアンサンブルが崩壊寸前の箇所が多々あり、結構ヒヤヒヤした。プログラムによると今回の来日公演でマーラーの5番を演奏するのはきょうの東京公演だけのようなので、やや練習が足りていないのかもしれない。

アダージェットは清澄でスッキリとした解釈。ハープは何と指揮台のほぼド真ん前、セカンド・ヴァイオリンとヴィオラに挟まれるように配され、楽曲後半、ファースト・ヴァイオリンがふたたび主題を演奏する時などはネゼ=セガンがハープを指差し「こっちのメロディが主役!」といったジェスチャーをする。この指揮者、音楽を楽しんで演奏している感じがする。

そして第5楽章。オケは引き続きフル・スロットルでよく鳴り、速めのテンポの中でも決して軽くならない。おそらく、弦の人数は16-14-12-10-8だと思うが、チェロ、コントラバスの思い切った鳴らし方、アクセントが見事で、オケに活力を与えている。コーダで突然オケがギア・チェンジ、ずっこけそうになったが、この指揮者は昔からこういうことをする。ラストはさらに大加速して破竹の勢いで終曲。サントリーホールは巨大なブラヴォーに包まれる。

ネゼ=セガンとオケの巨大な熱量に圧倒される演奏。血の共感が滲むタイプのマーラーではないが、強固な信頼関係をベースに、オケのポテンシャルを最大限引き出したネゼ=セガンを讃えたい。なかなかの名演だと思う。なお、P席で聴いたので音がどのようなバランスで鳴っていたのかはよく分からない。トロンボーンがあまりにうまくてぶっ飛びそうになった。

終演後はサイン会で、大行列。陽気な指揮者だった。プログラムに「パートナーはピエール」と書いてあり、この指揮者が同性愛者なのだと初めて知った。昔から公言しているそうだ。真っ白なシャツで指揮台に現れ、かなり自由に生きている感じの人だ。サイン会にはバティアシュヴィリも。やはり美人だ…。ジョージア生まれ、現在はミュンヘン在住とのことだが、フランス語で陽気に喋っていた。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント